「今日、紀之さんのお父様、銀行にいらしたわ。」

会えない日は、夜、電話で話す二人。
 
「もしかして、親父を手伝ってくれた人って、沙織?」

紀之は、驚いた声で言う。
 
「手伝うなんて。ATM操作で困っていらしたから。私、紀之さんのお父様だって、知らなかったの。」

紀之が、銀行でのことを知っていたことが、意外だった。
 


「親父、すごく喜んでいたよ。美人で感じの良い子が、親切に教えてくれたって。」

紀之は、嬉しそうに言う。
 
「やだ、褒め過ぎ。紀之さんのお父様って知っていたら、もっと親切にしたのに。」

急に恥ずかしくなる沙織に、
 
「大丈夫。沙織は、誰にでも親切だから。」と言って、短い沈黙の後、
 

「だから心配。」と言う紀之。


そんな言葉も紀之から言われると、胸が熱くなる。

滅多に言わない紀之だから。

とても嬉しくて。
 

「ありがとう。」沙織は、小さくかすれる声で答える。

電話越しの甘い空気。