ゆっくり育んだ愛だから。

お互いを理解して、信じられるまで、ゆっくり。


だから溢れた愛は、甘く切なく、二人の胸を満たす。


長く熱く、唇を重ねたあとで、紀之は沙織の頭を胸に抱いた。
 


何も言わずに、じっと抱かれて、沙織も紀之の背を抱く。


こんな時、耳元で“愛している”とか“好きだよ”と言えない紀之は、甘い言葉が苦手なのだと確信する。

 
『大丈夫。言わなくても、私には届いているから。』

沙織の背中や髪を、優しく撫でる手から、伝わっていたから。

そっと胸から顔を離すと、もう一度、唇を塞がれた。
 


「沙織ちゃん、今夜、帰らないと駄目?」

熱いキスの後、沙織の耳元で紀之は囁く。

迸る愛が、形を変えた瞬間。



沙織は、甘く微笑んで、紀之を見上げる。
 
「いいよ。」と小さく言って。

沙織も、離れたくないと思っていた。


紀之が、大企業の御曹司で、結婚はできなくても。

今は一緒にいたい。紀之の、言葉にできない不器用な愛を精一杯受け止めたい。



もう大人だから。