「パパ。絵里加ね、お話しがあるの。聞きたい?」絵里加が言う。

着替えに行く、智くんの後を付いて。
 

「ママ、本当なの?絵里加、すごいね。」

部屋着で降りて来る智くん。

絵里加は後ろから笑顔を見せる。
 
「すごいでしょう。ママも驚いたわ。でも絵里ちゃん、とても頑張っているものね。」

私も微笑む。
 

「明日から、ずっと練習よ。でも、絵里加頑張るよ。絶対、失敗しないくらい 練習するの。」

絵里加の前向きな言葉に、智くんと私は笑顔で見つめ合う。
 


翌日から絵里加は 毎日バレエ団の練習に通う。

バレエ団は家から少し遠く 路線バスで20分くらい。

学校から帰ると 絵里加は一人で向かう。

日の短い晩秋、帰る頃には真っ暗になってしまう。

レッスンが終わる時間に 私は壮馬を連れて 車で迎えに行く。
 


今までの練習とは 比較にならない程激しい練習も 絵里加は休みたいとは言わない。

トゥシューズに当って、足はまめだらけになる。

潰れたまめにテーピングを巻いて それでも絵里加は 泣き言を言わない。
 

少し早めに迎えに行って、レッスンを覗いてみる。

熱意と緊張感に満ちたスタジオの空気に 幼い絵里加は必死で付いて行く。


大人のダンサー達の真剣さ 公演に賭ける思いを絵里加は 肌で感じていた。
 

大役を受けた責任。自分が失敗すると みんなの努力も無駄にしてしまう。

絵里加はわかっていた。だから努力する。


その健気さは受け入れられて 大人のダンサー達にも 可愛がられていく。
 


レッスンが終わって 外に出てくる絵里加は 普通の6年生。

若いお姉さんのダンサーに 肩を叩かれて。

絵里加は、丁寧にお辞儀をしている。
 

「ママ、今日 絵里加 褒められたよ。すごく良くなったって。」

ニコニコと車に乗り込む絵里加。
 
「よかったね。絵里ちゃん、頑張っているから。お腹空いたでしょう。ご飯できているからね。」

バレエのことは 助けてあげられないから 私はそれ以外を 全力でサポートしよう。


絵里加の努力を、無駄にしない為に。