この人のこんな弱った姿は
初めて見た…

試合で勝ったときの喜びや
負けたときの悔し涙はあった。
けれど感情の落ち込みで泣いた姿は
1度だって見せた事がなかったしな。


「ジンくん…
 このまま、私の傍にいて…」

「それは…」

「一緒にいてほしいの…」



寂しさ、辛さ、不安
いろんな感情がこの人を襲っているんだろう。

それは見ていればわかる。

けれど…
どうして俺なんだ…?

なぜこの人は
俺に“それ”を求める…?


「マリカさん
 1つ、聞いてもいいです?」

「…なに?」

「アナタは
 俺の事を想っているんです?」

「…もちろんよ」


抱き着いていた彼女は顔を上げ
潤んだ瞳で俺を見つめながら続ける。


「アナタの事が、好き…」


と―――


「…そう、ですか」


小さく呟いて視線を逸らすと
彼女の両肩を軽く掴み
俺はそっと自分から体を引き離した。


「ジンくん…?」


驚いた様子のマリカさん。
その目からはもう涙は流れていない。


告げられた言葉に
焦ったり心が惑わされる事もなく
むしろすごく落ち着いた気分だ。