アタシ達は揃って頂きますとお礼を述べるとカップに手を伸ばした。
 カップからじんわりと伝わる熱が少しだけ張り詰めた緊張の糸をほぐした。 


 ほっと一息吐くと目の前のトレイに視線を落とす。
 トレイにはまだブラックコーヒーが2つ。

 1つ多いなと思っていると今さっきアタシ達が入ってきたドアから男の人が入ってきた。

 ゾクリと背中が粟立つ。
 アタシ達を捕まえた「氷川」という男だ。

 氷川は迷うことなくブースに入るとアタシ達が座る場所とは逆の位置を陣取りガラスの壁に背を預けて立った。


「氷川さんの分も淹れましたから」

「結構」


 千鶴さんはアタシ達に進めたように氷川にもコーヒーを進めるが氷川は軽く手を上げて遠慮の意を示した。

 そして先ほどと同じように静かに佇む。


「いつもなのよね、遠慮されちゃうの」


 そう言って千鶴さんは苦笑するとアタシ達と向かい合うように座る。

 そして静かに「じゃあ始めましょうか」と切り出した。