戀のウタ

「まずは恭介君と連絡をとらなきゃ…」


 そう口にし決めたけれどもすぐに自分の携帯電話には手が伸びなかった。
 代わりに伏せたままの写真立てに手を伸ばす。

 そこには先程までの遣り取りとは全く違う、――あの時から変わらない優しい世界が写されたままだった。


「どうしてこんなふうになったのだろう」


 そう言って泣き嘆ければどれだけ楽か。
 だがそれさえも赦されない所に自分はいる。

 その事実が十字架となり千鶴の華奢な背中に圧し掛かる。


 後悔しようにも歯車は回り始めた。
 回り始めたそれは止まる事も逆に動く事さえ許されない。

 もう後には引けない。
 千鶴にとってそれだけは確実な現実だった。