戀のウタ

 画面上の攻防がしばらく続き、その処理が沈静化すると千鶴は一息吐いて眼鏡を外した。


 かなり無理矢理な後始末ではあるがこれで恭介が働いたデータ介入に関しては足が付かないだろう。

 もし形跡を見、不審に思った警視庁から物言いが付いたとしても確実な証拠は残していない。それに特技研の権限は何者にも侵されない。

 それだけの権限がここにはある。


 その庇護下にあるという事は安心出来るものであるが理性のどこかではそれを薄ら寒く感じている自分がいる。


 自身の研究がとても崇高なのは認める。

 だが何かあれば倫理を冒してでも守ろうとするほど力は強大過ぎる。
 それは狂気だ。


 しかし狂気と分かっていても否定は出来ない。

 もう自分自身もその狂気の歯車の一つになっているのだから。


 劣情と怒りで火照った少しずつではあるが冷静さを取り戻しつつある。

 疑問はあるがどうにか凌げた事に溜め息を漏らし『今すべき事』を考えた。