戀のウタ

「ハッ、分かる気も無い。お前は上の命令通りにしていればいい。要らん情など――」


 「捨ててしまえ」と言い切るよりも早く耳を劈(つんざ)くようなアラームが2人の張り詰めた空気を切り裂いた。

 鳴り響く機械音はけたたましく部屋全体の空気を震わせ、怒りで我を忘れた千鶴を現実へと引き戻す。


 大音量で鳴り響く警告音よりもメインモニターに映し出される赤い点灯に千鶴の意識が向かう。
 弾かれたようにモニターへと駆け寄るその横顔は既に『研究者』のものだった。


「そんな…なんてこと――」


 画面に流れる文字の羅列を目で追っていた千鶴の顔から血の気が引いていく。

 遅れて隣に付いた氷川は彼女のわななく唇で事の深刻さを理解し、更に画面に映る羅列で状況を把握した。


「警視庁のデータバンクにクラッキングとはな。よくそんな機能を」

「冗談じゃないわ!あの子のカイロスは元々物理・時間干渉の技術よ!ネットワークにまで影響を及ぼすような能力なんて――」


 そこまで言って千鶴は息を飲む。
 だが吐き出された言葉は戻す事は出来ない。

 その言葉に氷川の口端がニヤリと歪む。