戀のウタ

 さっきまでの混濁した感情が嘘のように消え去る。
 まるで堰き止めていた堆積物を激流が押し流すかの如く。

 感情の暴走で呼吸もままならないほど息を乱しながら千鶴は目の前の氷川を睨みつける。

 敵意を通り越した殆ど『殺意』と言って違いない鋭い視線だ。
 その物騒な視線を浴びながらも氷川は面白そうに鼻を鳴らすとにやりと口角を上げて嗤った。


「やっと化けの皮が剥がれたな」

「…うるさい」

「見てて胸糞悪いんだよ、その鉄面皮が」

「黙りなさい…貴方に…あんたに何が分かるのよ!」


 いつもの穏やかさを微塵も感じさせない強い語気が千鶴から吐き出される。だが氷川はこの程度の事で気圧されるような男ではない。

 氷川は打たれた頬を気にすることなく吐き捨てる。