戀のウタ

 初めてゼロエイトこと『中野恭介』に会った時、千鶴はこの上ない衝撃に打ち震えた。
 氷川の言うように恭介が死んだ夫に似ていたから。

 幼い顔の中にある温和な雰囲気が最愛の人と重なった。


 他人から見ればほんの些細なことだろう。
 だが彼女にとってはどうやっても覆らないし無視も出来ない事実だった。

 どこまで行っても自分の望むことが叶わず決心を揺るがすものが付きまとう。

 命を絶って楽になる事も、夫への想いだけで生きようとする事も許されない…生き地獄とも言えた。

 その逃げられぬ責め苦に耐える為に時間をかけて現実と折り合いを付け、慣れたのに、である。


 この男はその事実を再び持ち出し千鶴を傷つけ蹂躙した。

 苦痛だった。