詳しい事情の説明も無く、当時の担当者を問い詰めても口を噤むばかりで父の最期の言葉さえ分からない状況だった。


 当時、まだ高校生になったばかりの白河でさえ不審に思える父の死。

 その不可解な夫の死に悲しみに暮れる母の小さな背中を見て、生来の強い気質と武道を通じて培われた真っ直ぐな心が『父の死の真相を突き止める』という事柄に結びついたのは仕方ないことだ。 


 その真実に辿り着く為には何でもしようと自分の心と父の墓前に誓った。

 空手の腕を鍛えてインターハイに入賞したのも、目指していた教員の夢を諦め警察官になったのも父の死の真相を付き止める為。

 きっと警察内部にその手掛かりがあると信じて。

 そして今、目の前にその手掛かりがある。

 白河は歓喜にも似た沸き立つ衝動を抑えてじっと目の前の人物を見据えた。
 その強い視線を向けられた局長は面白そうに目を細める。


「…話を戻そうか。今回の出頭命令はこの娘の確保を命令するものだ。表向きには異動だがね。辞令はすぐに出す」

「拒否権はないんですね」

「拒否しないと踏んでるからね。それに君以外を遣わすとなるれば方法は選ばんよ」


 民間人を守るべき立場の人間の言葉では無い。
それ以上に拒否すれば確実に実行する意志の見える声色に白河の背筋に冷たい汗が流れた。

 手掛かりを掴むという大義名分の他に馴染みある妹弟子である彼女を守るという使命も白河の心の中に付属する。