「それにしてもこの辺は変わらないな」

「そうですね、駅前とかはお店の入れ替わりあるんですが」

「そっかーじゃあ近い内にショップ巡りでもしなきゃな。松永、どっかお勧めある?」

「んー、普段行くのって雑貨屋さんとかスイーツ関係のお店ばっかだし…」

「あ、俺甘党だからそこはチェックしたいなぁ」


 アタシの答えに白河先輩はおどけた口調で言って爽快に笑う。
 ああ、道場にいた頃と変わんない笑顔だなぁと思いながらアタシは助手席からちらりと横目で盗み見た。

 恭介とは違う、大人の男性らしい精悍な横顔と大きく張った喉仏。
 ボタンを外して胸元の空いたポロシャツ覗く首筋は太くて逞しいと思う。
 仄かに香る柑橘系の香水と白河先輩自身の匂いにこれが男の人なのかな、と考えた。

 そう考えるとさっきまで居座っていた緊張感が再び舞い戻ってくる。

 ずっと前から知っている人だけど、こうやって『男性』として意識してしまうと気恥ずかしさが一気にアタシの心を満たした。

 何だかこうやって2人きりでいるのが落ち着かなくてアタシは苦し紛れにバッグからメモ帳を出すとペンを走らせる。


「じゃあお勧めのお店の地図描き…」

「ああ、いいよ。このまま行っちゃおう。次、曲がるな」

「えぇ??」


 アタシの返事を待たずに白河先輩はそう宣言すると目の前の交差点を右折した。

 急な右折だったけどちょうど他に車も無かったのですんなりと駅前方面への道へと入り込む。