「あー…気ぃ張ってたんだなぁ」


 恭介と距離をとることがこんなにも力のいることだというのに今更気付いた。

 それと同時に今までどれだけ恭介と一緒に過ごしていたかという対比なのだと実感させられる。

 はぁ、っと軽く息を吐いてとぼとぼと歩いていると後ろからクラクションが聞こえた。
 ぼんやりと歩いていて気構えのない所に鳴らされた大きな音にアタシの肩が跳ね上がる。

 思わず振り返るとアタシの歩いている路側帯に沿うようにゆっくりと白い乗用車が走り込みハザードを点けて停まった。

 誰?と思っていると運転席側のオートウィンドウが開いてそこからひょっこりと顔を覗かせた。


「久し振り、松永」


 短く刈り込んだ髪と程よく焼けた肌の若い男の人がアタシを呼ぶ。
 アタシは一瞬迷ったがその人好きする爽快な笑顔の中に昔の面影を見つけた。


「…愁にぃ?」


 小学校の頃に読んでいた呼び名が思わず口を突いて出てしまう。
 アタシは言った傍から「あっ」と声を上げて「白河先輩」と呼び直した。