「それにしても…酷いね、ウチの高校の治安は。もうさ、無法地帯じゃん。よく死者が出ないもんだよ。それもこれも、霜月生徒会長のおかげかな」

依頼者が帰った後の室内では、悠希がなにやらブツクサとこぼしていた。

「いいや。今の話は知らなかった。俺もまだまだ把握し切れてないところが多いからな」

そう言って部屋の奥から出てきたのは悠希と同じくらいの背の青年だった。サラサラとした黒髪に、細くしなやかな目もとが印象的だ。

「あと、その呼び方はやめろって」

「ちょっとからかっただけだよ。碧人、怒んなよー」

「別に怒ってないけどさ」

悠希が呼びかけた人物はどうやら『碧人』というらしい。

「でも、ツッキーはやめてくれ。笑い堪えるのに必死だったんだからな!」

「碧人が物音立てるからだろ?2回目は正直危なかった。フォローするほうの身にもなれって!あ、でもツッキーはけっこう気に入ったなー」

霜月だから、ツッキー。名案だろ?
そう言った悠希の態度に、ついつい碧人の方も笑ってしまう。

「確かに。あの一瞬でよく思いついたよな…にしても、この辺の情勢は恐ろしいよ。生徒会長として、もっと頑張らないと」

「そこで『もう会長やめたい』って言わないあたり、碧人もイイやつだよな。ていうか、生徒会長の仕事じゃないだろ、それ。この地域の治安まで一手に引き受けるってのかよー」

真面目な奴め!だなんておちょくる悠希に、碧人は視線を向ける。
何せ彼には尋ねたいことがあったのだ。