「ただ、ひとつだけ気になることがある」
彼は不意に笑みを消した。
「ストーカーはいけないことだ。だからソイツを呼び出してフルボッコにしてもいいし、警察に証拠揃えて突き出してもいい。それはあんたひとりじゃ難しいだろうから、俺も協力する。けど、いじめっ子の方は、あんたが動かなくちゃ意味ないんじゃねぇの?」
「私が…ですか?」
「やめてくれって、そう言えるのは被害者だけだろ?他の奴が口出ししたって言うこと聞くとは思えねぇしな」
唐突に、彼の口調が変わった。
さっき怖そうな男と話してたときみたいな話し方。
あ。しまった。
そう聞こえた気がした。
気のせいだったみたいだけど、彼の口調は優しいモードに戻ったみたいだ。
「ごめんね?もちろん悪いのは、あくまで加害者だよ。それは俺も分かってる。だから、出来る限り美織さんの力になりたい。一時的な抑制じゃ駄目なんだ。それじゃあまた同じことの繰り返しになっちゃうからさ。だから一度、よ~く考えてみて」
「…分かりました」
最後にありがとうございました、とお礼を告げて、ソファから離れる。
「明日、またここに来てくれるかな?さっきの答えはその時に聞かせて」
しっかり頷いてくるりと彼に背を向けたとき、そーいえば!と声がした。
「忘れてた!何度もごめんね、美織さんはさ、このこと誰かに相談した?」
身近に話せる人がいるだけで、だいぶ楽になるよ。
彼はにっこりと笑ってみせた。
いつもそばにいてくれて。
話を聞いてくれて。
…誰よりも私のことを心配してくれる人。
「ひとりだけ、います。幼なじみで、結人っていうんですけど」
『ゴ』に濁点をさらに3つぐらい足したような音が聞こえた。また、部屋の奥から。痛ってぇ…そんな声も聞こえたような…?
「ウチのツッキー、最近反抗期なんだよね……」
「でも今、『痛ってぇ』って」
「え?そんな声聞こえた?空耳じゃない?ね!きっとそうだよ!」
「そう…ですかね。そうなのかな」



