「先生、傘、ありがとう…」
「やっと、気付いた?」
先生は振り返って笑った
「いつ気付くかな…って思ってた」
先生はメガネをとった
あの時、車に乗せてくれた人
運転席の後ろに乗ったから
正面の顔はあまり記憶になかった
しかもメガネは、かけてなかった
「コレ…立花さんの?」
先生はスーツのポケットから
リップケースを出して私に見せた
「あ!私の!!!」
自分で買ったブランドの口紅
5000円近くしたのになくして
ずっと探してた
「車に落ちてた」
「よかったー
ありがとうございます」
私は先生にお礼を言って
受け取ろうとした
「よくないよ!」
「え?」
「大変だったんだ!
彼女に責められて…」
「え…先生、彼女いるんですか?」
「失礼だね…
返そうと思ったけど、没収!」
先生はまた
スーツのポケットに私のリップをしまった
余計なことを言ってしまった
「明日、傘返すので
リップ返してください」
「今日は傘あるの?」
「んー…朝晴れてたから‥ありません」
「仕方ないな…
また駅まででいい?」
「え…」
「教務室寄ってから行くから
玄関で待ってて
後ろに乗ってね」
そう言って先生はパソコンを閉じて
帰る準備をした
「いんですか?」
「だって、傘ないんでしょ」
戸締まりしながら先生は言った



