「立花さん、それ、いつまで描いてんの?
もぉ夏だけど…」

先生が私の桜の絵を見て言った



「締め切りなければ、ずっとです」



「一途だね…飽きない?」



「飽きません」



「オレと同じ…
オレも前は、ずっと同じ絵描いてた

けどさ、空も春の空と夏の空じゃ
ぜんぜん違うじゃん
雲だって動くし…」



「はい、その辺は大丈夫です
春の空を思い出して描いてます
雲の動きは、想像で描いてます」



先生と見上げた春の空



「オレも空の画描くの好きだったけど
空って人の心と似てる

雲って動くけど、人の気持ちも動く…

それを想像することはできるのかもだけど
想像だから、ホントにそうかはわからない
結局、ただの想像であって…

雲自体もわからないのかも…
どぉなるのかなんて…
風に任せるしかないのかな…」



先生、何が言いたいの…?



「空の色、思い出すことはできるけど
だんだんと記憶も曖昧になって
自分で脚色した色になってるかもしれない

ホントにあの時見た空の色とは違うかも」



私は空を塗りながら先生の話を聞いていた



先生の空、見てみたい



「先生の絵、見せてください」



「ダメ…」



「見てみたい」



「だから…ダメ…」



「なんでですか?」



「あんまり好きじゃない
人に自分の絵見せるの」



「なんでですか?」



「心の中、見られてるみたいだから」



「わかります
その人の気持が見えますよね…

でも、私は、私の世界を人に見てほしい
絵で、気持ちを伝えたいです

先生の心の中、見たいです」



「…
よくわかんないから…ダメ…
見せない」



「もぉ…先生のイジワル!」



真剣だったのに、私



「ハイ、じゃあ、今日はもぉ帰ろう
オレ、早く帰りたいから」



「なんでですか?
彼女に会うんですか?」



「暑いから」




そう言って先生は美術室の窓を閉め始めた



もっと先生と一緒にいたかった



夏休みも私の片思いは続いてた