放課後 【5/11】図書室

(いない…かぁ。)

残念に思う反面どこか安堵した自分もいる。

『日和は度胸がない。』

さくちゃんが見たらそう言いそうだなぁ。

何もしないで帰るのも不自然だし1冊だけ本を借りる事にしよう。

元々、本を読むのは嫌いじゃない。
まぁ好きでもないけど。

(あ、この本…。)

前にさくちゃんが面白いって言ってたような…。

桜色の表紙が綺麗なその小説を手に取る。

図書委員自家製のポップカードによれば、この小説は何かの賞の受賞作品らしい。

(読んでみようかな。)


『あ、その本人気なんですよ』

『え、』

話しかけて来たのは司書の先生だった。

『そ、そうなんですか…』

『やっと帰って来たんです。ラッキーですね。』


ラッキーか…。

司書の先生の言う通り、この本は相当人気らしい。貸し借りカードに沢山名前が書かれてある。

『借りてもいいですか?』

『もちろん。』

そう言うと司書の先生は、私の持っていた小説を図書委員に渡した。

『手続きをお願いします。』

『はい。あ、この本。』

その本を受け取った図書委員はそう呟きながら顔を上げた。


(え。)


その図書委員は…同じバスの彼だった。

『人気のやつですよね。』

にこっと笑った彼の顔が眩しくて…

顔の温度が一気に上がったのが自分で分かる。

『そ、そうなんですね…!』

声が震える。
返事遅かったかな。
てか返事、おかしくなかったかな。


『俺も昨年読みました。』

『お、おもしろかったですか?』

凄い!私、今彼と話してる…!

『はい。ここ、ほら。俺の名前。』


(1年C組…桐生海斗…)


わぁぁどうしよう。名前を知れたことがもう…死んじゃうくらい嬉しい…!

(昨年読んだって事は…今2年生…同い年…)

『クラスと名前、お伺いしてもいいですか?』

『あ、えっと!2年A組汐路 日和です!』

彼が綺麗な文字で私のクラスと名前を貸し借りカードに書く。

『はい、どうぞ。2週間後、返しに来てください。』

『は、はい…!』

ドキドキが鳴り止まないまま図書室を出る。

同い年…桐生海斗君…

名前は聞いちゃった…てか話しちゃった…!


うちの高校は3年間クラスが変わらないから、きっと彼は今2年C組。

どうしよう、凄く、凄く嬉しい!!