「……ねぇ、桃。1つ提案があるんだ」

不意に私を離し、詩は私をじっと見た。

「一回さ。性別不詳、名前不詳で歌ってみる?それで、皆の反応を見てみようよ」

「……うん……」

私は詩の真剣な眼差しに、思わず頷いてしまう。でも、何故かその選択が嫌じゃないんだ。

詩は一瞬驚いた顔を見せたあと、頷きながら微笑む。

「編集や投稿は、俺の方でするね」

私は、詩の言葉に頷いた。



私は詩と一緒に『アスター』というボカロ曲を歌って、詩にネットに投稿してもらった。

『桃!コメ欄見て!』

詩からラインが届いて、私はコメ欄を読む。

『もう一人の子、かわいい声してる!』

『素敵な歌声!!もっと歌雨(うたう)くんとコラボしてほしいな~』

など、私の声を褒めるようなコメントがたくさん。

「……っ!」

思わず、嬉しくて泣きそうになる。私は「ありがとう」と一人呟いた。



私は帰り道、『失敗作少女』を口ずさむ。

「『失敗作少女』を作ってる人が作ってる曲なら、『ベノム』とか『ルマ』が好きかな!」

急に隣を歩いていた詩が言った。

「私は、『アンヘル』と『セイデンキニンゲン』かな。あーでも、『アイソワライ』も良い……」