「……そっか……」

私の答えに、詩は悲しそうに微笑んだ。

「私は、歌うことより絵を描く方が好きなの」

私は詩にそう言って微笑むと、カラーサークルをいじって影色を作り、ブレインドモードを乗算にして、影を塗り始める。

本当は、歌う方が好きなんだけどね……。自分の歌声に、自信がないんだ。

「……本当は歌いたいんでしょ?」

私の心情を見透かしたように、詩は言った。

ドクンと心臓が嫌な音を立てる。やだ……思い出したくない……。

「……」

「……それ以上、強制はしないけどさ。でも、過去に囚われすぎじゃない?桃の歌声は、素敵だから。それだけは言っとく」

「……うん」

私は過去を思い出さないように、目の前のイラストに集中した。

――お前の歌声、男の子みたいだな!

――普通の声も、男の子みたいだよね!いっそのこと、男の子だったら良かったんじゃね?

「……っ」

私の声をバカにされた日の記憶が蘇る。その日から、私は人前で歌うのを止めた。バカにされるのが嫌だから。

「……桃?」

気が付けば、私は泣いていた。顔を上げて詩の方を見ると、詩は私を驚いた顔で見ている。

「……ごめん」

突然詩に謝られて、詩に抱き締められた。……え?