私は、無言でペンを動かす。

「詩(うた)、ラフはこんな感じで良い?」

液タブ(液晶タブレットの略)から顔を上げ、画面を異性である幼なじみの詩に見せた。

「え、すげぇ……良くこんなん思い付くよな!」

「そう?ありがと」

私は、詩の言葉に微笑むことしか出来ない。

不透明度を下げたラフの上にレイヤー(透明なフィルムを重ねてる感じ)を追加して、とりあえず清書作業。

それが終わったら、レイヤーを分けながら、バケツ塗りで下塗りして……。

「……てかさ。詩……良くずっと見てられるよね。倍速になってるなら、まだしもさ……」

詩はさっきから、『花見る人』というボカロ曲を口ずさみながら私の絵を描いているところを見てる。

詩は歌うのが大好きで、歌い手をしているんだ。その動画のイラストを、私がほとんど毎回担当している。

「桃(もも)の絵柄が一番好きでさ。絵を描くのが好きなわけでもないのに、桃の投稿したメイキング動画を良く見返してる」

私はメイキング動画を、詩は歌ってみた動画を、ネットに投稿してるんだ。

「……ねぇ、桃。歌うのが好きならさ……俺と一緒に歌わね?」

詩は良く私を誘ってくれる。でも……。

「ありがとう……でも、無理かな……ごめんね」