屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜





程なくして
カウンターの上に
差し出されたグラスは三つ


灰谷にはビール
あずるには、乳白色のカクテル
底の方だけ うっすらと碧い




「 それね
"My Prince" って名前つけたんだ 」


「 おいしい 」




そして
俺の前に置かれたのは
ノンアルコールタイプの
金色に泡立つシャンパン




「 … よく、
覚えてらっしゃいましたね 」


「 ん?あはは
俺ね〜、人の顔とか
名前覚えるの得意なんだよね〜
特にあなた達は、忘れっこないよ 」




あの時と同じ
その人懐こい笑顔は変わらない


ただ当時
顎髭はうっすら生えていたが
元は女性と聞いて納得する
線の細さが、やはりあった




けれど、あれから数年 ―――


もしそうと聞いていなければ
気の良いマスターと客、男同士として
何の疑問も抱く事なく過ごしていただろう




「 …にしても遅いなあ 」


「 え? 」


「 彼等にも、案内状送 ――…
ああ!来た来たっ!! 」




カウンターから身を乗り出すマサヤさん

入口で、来訪者を知らせるベルが鳴る




「 ちわーッス!!」


「 こ〜んに〜ちは〜!! 」


「 ――― クウヤ!!カイヘー!! 」




二つの名を呼ぶ
驚きと喜びの交じった、あずるの明るい声


そこには
全身見事に、海賊に扮した真木と
浴衣に茶羽織り、坊主頭でニコニコ笑う
菓子とカメラを抱えた、池上の姿があった