屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜




「 あっ!忘れてた! 」


あずるは上機嫌で鼻眼鏡を決め
灰谷は、綺麗に塗られた 紅い唇で笑い
開かれたドアの前で
ファーの付いた襟元を閉める




「 あ、リュウジくん、アンタも
折角だから、これ位して行きなさいな 」


背伸びをして
オミヨさんが冠せてくれたのは
上等なのが見て取れる、黒のハット


「 あら、思った通り…
ちょっとボガートみたいで
イカシてるじゃない?!
似合うから、プレゼントするわ 」


「 ありがとうございます 」


「 ――… こちらこそよ 」




『いってらっしゃい』の声を背に
地下に潜む扉を開いて
ネオンが照らす、明るい地上へ




「 … アズ、どっち行くの 」


「 えっとねぇ…

――― あ、トオヤ
少ししゃがんで? 」


「 え 」


あずるはニコリと笑って
灰谷の顔を押さえ付け
ポケットから出したティッシュで
その鮮やかな緋色を落とした


「 … な、アズ?! 」


「 だって はみ出てたんだもん
いこ " トオヤ " 」


「 ――… 」