屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜




ステンドグラスで作られた
各席の間仕切りと、煙草の煙


拍手の音と同時に
ステージのフロント
クラシックマイクの前


金色のスパンコールを全身に纏った
ドラッグクィーンが一人
スポットライトと一緒に登場した

お互いに目で合図し
ピアノの伴奏と歌が始まる




「 ――… あの子の怪我は治った ど
貴 の方 まだ だらけね… 」



ステージを見つめ、拍手をしながら
オミヨさんが突然、何事かを呟いた


よく聞こえなくて
体を少しだけ、その口元に傾ける




「 前に…
少し話したかもしれないけど
ここにあの子が来たのは十五の時よ


『働かせて下さい』 って…
最初は十八って言ってたけど
そんなの嘘だって事は、すぐ判るからね


―― ただ…

ちっとも素の顔で笑わないし
一緒にいる男が男だったからさ

貴方、水谷タカオが
どんな男だったか知ってる? 」



「 ――… いえ 詳しくは 」




「 あらそう…

まあ、前のオトコの事
聞かれてもいないのに事細かく
今のオトコにベラベラ喋るのは
馬鹿な女の証拠だからね


―― とにかく不気味な奴だったわよ

仲間とつるむ訳でもないのに
若い奴らのドンみたいになってた…


途中からは、そんな事にも飽きたのか
バンドかなんか始めて、酔っ払っては
あずるに金の無心に来てたのは
前にも話した通りよ 」