――― 重いバスドラを蹴る音
良く張って心地良い スネアの反響
立ち位置を印したフロントでは
男性が一人 マイクに向かって
共鳴音と炸裂音を
何度も確かめ繰り返す
モニター
若干、風呂場の様だったリバーブ
数々のサウンドチェックが進むと
元々 音楽の為には
造られていないこの空間が
時折、不意に訪れる
波を打った静寂と共に
無量の『音楽の聖地』へと変わって行く
開場時のSEが 一瞬だけ鳴った
「 …あの頃 ―――
音楽をやっている若者は
皆、彼等に夢中だった
チケットは数分でSold out
電話回線だって
あっという間にパンク
ここも、二階席迄いっぱいで
入れなかった人間達が
建物の周りへと押し寄せた
――― 横濱の
今はもう何処にも無い
小さなライヴハウスから始まって
新宿のビル 薄暗い地下から
巨大な 渦の様なブームを作り
ほんの数年で
消えてしまったバンド”Voice”
そこのドラマーである彼の息子が
演奏する楽器は違えど
また同じ場所に立つ事になるとは
――― 実に 感慨深いね 」
黒いラインを剥き出しにして
提げられていた照明が
白い光源を散らしながら
ステージ上空で 微かに位置を変えた
「 本番は 明日? 」
「 はい
明日は午前から ―――
本リハーサルがあって
二日間 やります 」
「 そう
――― 音
大きくなって来たね
中庭へ オブジェを見に行こうか 」


