屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜






駐車場


イベント用の搬入口に停まっているのは
大きな運搬トラック

その長いサイドには
ツアーのタイトルを示すロゴ


壁に貼られた 二つの電光掲示板


見上げると八角形
旗が提げられた天井
幾つかの通気孔


ライティングされたステージには
横を開いた荷台の中から
沢山の機材達が運ばれて来る




「 アズル
エントランスに回って
上の会議室にでも行こうか 」


「 ううん、ここがいい 」


「 ―― そうか?
お父さん、青山君と
少しお話をするから 」


「 うん  お父さん?
ぜったいリュウジをいじめないでね?!
いじめたら怒るからね?! 」


「 わかってるよ 」




あずるはニコニコと笑い、観客席から
細い通路に走り、会場の前列

ステージが良く見える場所へと
楽しそうに移動する




「 …なんだいなんだい
久しぶりに会ったパパなのに…
ちょっと可愛いと思って〜 」


「 …… 」


その不意打ち過ぎる
外見とは予想も付かない物言いに

思わず笑い出しそうになりながら
涙ぐむエリック氏に
ハンカチを差し出した


「 … アリガトウ
洗って返すし… 」


「 いえ 」




銀の髪、目尻の皺、 髭、長身
黒で揃えたスーツとコート


エリック・スラストファー氏は
”音の魔術師”と異名をとる
世界的な作曲家


彼があずるの 本当の父親



「 …君とは長い事
連絡が取れなくて悪かったね 」


「 いえ、お忙しいのは…
僕の方こそ御足労をおかけ―― 」


「 ううん 違うよ
ずっと、居留守を使ってたんだ 」


「 ――… え 」


「 うん そうなんだ 」


「 ――… 」