ふいに灰谷は、空を見上げる


すると、様子を窺っていた黒い群集は
羽根をしきりにバタつかせて
電線から一斉に 飛び去って行く




「 …そういえば青山さん 」


「 ん? 」


「 煙草とか酒、煩く言わなくなったね 」


「 今年成人式した男に必要ないだろ 」


「 …自分はその前から吸ってたじゃん 」


「 お前はまだ成長期だったからな 」


「 …そんな理由? 」


「 そんな理由だよ 」


「 …じゃあ酒は? 」


「 酔い潰れたら、俺に連絡が来る 」


「 ……… 」




" もうすぐ誕生日か "
そう言おうとして、やめた


あずるも
梅川さんに聞かれるまで
その辺りの事は
あまり言いたがらなかったからだ




「 …そうだ、俺
シチュー食いたいな 」


「 後は? 」


「 何でもいい
… 大学の近くに、美味いパン屋あるから
俺帰りに買って来るよ 」


「 食パンでいいなら、うちで作れるぞ 」


「 …何それ 」


「 電気窯がある 」


「 …じゃあ、手ぶらで帰って来るよ 」




灰谷は煙草をくわえ、おかしそうに笑って
パーカーのポケットに手を突っ込み
サラリーマンや学生が歩く通りへ
ブーツの音をたてながら消えて行った