上着をあずるの袖に通して
ボタンをはめる


「 でも… よかった 」


「 ん? どうした 」


「 リュウジ…
私がいるから気い使って…
それでベース
弾かないのかと思ってたの 」


「 まさか

弾きたくなったら、ちゃんと弾くよ 」


「 うん 」



車に楽器を預け
新宿駅前、西口


構内に続く入口はまだ
銀色した格子に閉じられているが
客を待つ、タクシーの列で明るい




カラオケ

飲み屋


どぎつい色の、看板が光る
飲酒店の並ぶ界隈に入れば
目的の場所は、すぐそこだ




「 ――― お、混んでんな 」


脂で焼けた 赤い暖簾を潜ると湯気
ネギの焼ける、香ばしい匂いが漂う




ほぼ満員の店内、厨房奥


頑固そうな目がちらりと
こちらに視線を向けたが

忙しそうに肩を揺らして
再び重い、鉄鍋を振るう


「 相席か
オレ、カウンター行くわ
オマエら あそこ座れや 」


真木が顎を向けた先には
たった今、ひとり立ち上がった
三つの空席


「 え、クウヤ!私が行くよ 」


「 腹減ってんだよ
遠いと、替え玉頼むのダリぃだろ 」


「 … なら俺も行く 」