屋上海月 〜オクジョウクラゲ〜




すぐに奥の客から
こちらに向かって、何か声がかかる


マサヤさんの言葉から察するに
二人は何度も、ここに通っていた様で
客の何人かとも、すでに知り合いらしい




「 ―― 久しぶり 真木 」


「 … 久しぶりじゃねえよバーカ! 」


ヒザに、軽く蹴り


「 悪かった
――― お前、体…休めてるか? 」



帽子を被っているせいかもしれないが
少し、顔色が悪い


「 つかオマエこそ
まとまったオフなんて
去年の夏から無かったろ

こっちも新人二組、無事デビューしたし
心配する必要なんか …――

あ ちょいゴメン! 」




真木は突然、姿勢を低くして
片耳を抑えながら、誰かと会話を始めた


「 …何こんな遅くに電話して来てんだよ
明日学校だろ?さっさと寝ろ!
んだよ、アヤもカコも一緒か!!」




―― 仕事相手では無い事


妹のタカコちゃんで無い事は
その表情の 柔らかさで判った

真木は彼女に対して、普段、妙に手厳しい


かと思えば

彼女が親と 進路で揉め、家出をした時
血眼になって捜す優しさもあって
不器用であり、愛情深い所が

今回の怒声も含めて
相変わらず、真木らしいなと思う




「 あれ〜?空哉さ〜ん、彼女〜?
まめに連絡しないとフラれるよ〜 」


「 ウッセッ 」


短い通話を切った所で
マサヤさんの
からかい気味なツッコミが真木に入る


「 ―― 真木 」


「 あ?
まだそこまで行ってねえよ
それにすぐ、こんなオッサン飽きんだろ 」


「 空哉さん
そういう言い方は可哀相〜 」


「 ヘイヘイ、スイマセンね 」


憎まれ口をきいているが
これは、真木お得意の照れ隠し




「 知らなかったな 」


「 だからまだ
カノジョじゃないっつーの 」


「 年下の子か?」


「 まず遠恋に、耐えられる年じゃねえよ

――― それに 」


「 うん 」




「 オレは今、ギターが弾きたい 」