「徹さんも。私には何でも言ってね。」

光子が静かに言う。
 
「今さらだけど、光子が店に出るの、イヤだ。」

光子の頭に顔をつけて徹が言う。
 


「うそ。私にお店に出るように言ったの、徹さんじゃない。」

光子は驚いて、徹の肩から顔を上げる。
 


「本当は俺、ヤキモチ焼きだから。光子が他の男と話すのもイヤだ。」

少し照れて、光子を見ないで言う徹。
 
「うそ、嫌だ。そんなこと全然言わなかったじゃない。いつも平気そうにしていて。」

さっきまでの涙が消えて驚いた声で言う光子。
 


「光子が夜の街に行くよりは、俺の店にいた方が安心だから。でも、本当は嫌だった。」
 
「何で。私達、馬鹿みたい。私、徹さんに嫌われていると思っていたから。怖くて、心配で。ユーリ置いて遊び歩いて。でも徹さん何も言わないから。もう見放されたと思っていたのに。」

光子は自分に呆れたような声を出す。
 


「俺、光子よりも年上だから。大人だから言い出せなかった。」
 
「でもあの頃、徹さんは、」

光子はその先を言いよどむ。
 

「あれは、単なる体の不調だった。光子に問題があったわけじゃないんだ。店がどんどん増えて、無意識にストレスが溜まっていたのかもしれない。」

徹の告白に、光子は手で口を塞ぐ。

もっと早く聞いていたら、あんなに苦しまなかった。
 


「ごめん。私、ちゃんと聞けばよかった。」
 
「いや、今だから言えたんだ。あの頃聞かれても、俺言えなかったと思う。」

徹はしんみりと言う。

光子を抱けた今だから。

10年振りに抱いた光子に、もう一度夢中になっている今だから。