校門前に止めた車に向かって夕璃は走ってくる。

徹が車から降りると『パパー』と言って手を振って。

まだ華奢な体は身長も光子より低い。

長い髪が風になびくと額が出て、夕璃をより幼く見せる。
 

「そんなに走らなくても大丈夫だよ。」

後部座席のドアを開けてあげる徹。
 
「だって。駐車禁止だから。」

と車に乗って夕璃は言う。



助手席の光子が振り向いて
 
「おかえり、ユーリ。」

と言うと、


夕璃も嬉しそうに『ただいま』と言った。
 

「ねえママ。ずっと考えていたんだけど、やっぱり洋服が欲しいな。どこで買い物するの。それによって変わるけど。」

早口に喋る夕璃に、徹と光子は苦笑する。
 
「ユーリ、絶対授業聞いていなかったよ、今日は。」

光子の言葉を無視して、
 
「ねえパパ。どこで食事するの。せっかくだから制服じゃいやだな。買った洋服に着替えてもいいけど。靴とか鞄が合わないし。」

と徹に言う夕璃。前のめりに腰かけて運転席と助手席の間から顔を出して。
 

「上から下まで全部買って着替えなさい。好きなように。」

徹が笑いながら言うと、
 
「さすがパパ。」

と徹の肩を叩く。


こんな風に、ずっと甘やかしたかった。

我儘になると叱られても。

夕璃の願いは全部叶えようと思っていた。

それなのに甘える機会さえ与えられなかった。