徹の商売は順調で、徐々に規模を広げていく。

でも仕事が順調なほど、徹が家で過ごす時間は減っていく。

光子の心に隙間ができ始めた頃。

二人の心がすれ違い始めた頃。
 


ちょうどその頃、光子の母が亡くなった。

ずっと病弱で、入退院を繰り返していた母の死は、ある意味で光子を解放した。

大学を卒業した妹も働き始め、光子は自分の役目が終わったことを知る。
 


それでも光子には可愛い夕璃がいた。

夕璃を名門の小学校に入学させることが、光子の目標になっていく。

上品な子供服を着せ、自分も地味なスーツ姿で幼児教室に通う。
 

光子は学歴がないから。

夕璃には十分な教育をしたい。

光子ができなかったことを、全部してあげたい。

夕璃の望むまま、ピアノやバレエの教室にも通った。
 


若くて美しい光子と利発で穏やかな夕璃。

しかも溢れる財力。

妬みから色々言われても光子は幸せだった。

妬まれる立場になったことに。

いつでも自分は妬む方だったから。

その頃はまだ、徹の愛を信じていたから。