最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~

「あんなもの言葉のあやで、深い意味は、上げ足とらないで! 全員ぶちのめして記憶喪失させるわよ!?」

 なんて恥ずかしい、もう鏡の中にでも消えてしまいたい。
 いや、カガミがいるので今のはなしで。
 盛大に気まずい状況を打破するため、メレはオルフェに詰め寄ることを選ぶ。

「だ、だいたいからして! ど、どこに……わたくしのどこに惚れたというのよ。言えるものなら言ってごらんなさいよ!」

「全部だな」

 どうせ言えるわけがないと高をくくっていたのだが。さすがにその回答には沈黙する。投げやりな回答で丸めこまれるほど甘い女だと思われているのか、器が大きいのか判断に困った。

「まず、顔は文句のつけようがないな」

「褒めたって騙されないわ」

「お前を家に招いた時、俺の家族と仲良くやっていただろう。こういうの、良いなと思ったんだ」

 メレは火照る顔を両手で覆う。概念ではなく心の問題だ。この状況では温度のない掌が心地良い。

「ちなみに一つ目の勝負、お前の手料理が食べてみたかった。ついでにいうと家へ招いたのは家族と引きあわせたかったからだが、さっそくデートまでできるとは我ながら名案を思いついたものだ」

 自画自賛である。しかもそんな理由で料理勝負を提案したとは呆れる他ない。

「二つ目の勝負では貴族としての技量を図りたかった。正直余興には期待していなかったんだ。ここで俺が二勝する展開を想定していただけに驚かされた。ドレス映えも文句のつけようがない。社交性もあり語学も堪能。さらに友人にも慕われている。伯爵夫人になる資質は十分だろう。安心してパーティーの際は余興から客のもてなしまで任せられそうだ」

 メレは黙って聞き入っていた。というより口を挟む余裕がない。

「三つ目の勝負だが、貴族だけではなく民にも愛される人であってほしかった。そしてエイベラを好きになってもらいたかった」

 オルフェが微笑む。これは勝負のたびに見せられてきた不敵なものだ。

「全てにおいてお前は予想を上回ってくれた」

「自分で自分の首を絞めていたなんて……」

 掌の上で弄ばれていたなんて辛すぎる。
 けれど本当に胸にあるのは辛さだけだろうか。
 ノネットがもたらした真相はメレに激しい動揺を与え、はらわた煮えくりかえって暴挙に出てもおかしくない。それが大人しくオルフェの告白を聞いているのだから。

(わたくし何を考えているの?)

 嬉しくないと、拒絶出来るだろうか。