「レーラ!?」

 さらっと婚約者を見捨てたどころか復縁宣言にエセルも絶望している。
 ただ一人、オルフェだけは表情を変えることなく言い放った。

「悪いな、お前のようにつまらない女は俺に釣り合わない。俺の隣が相応しいのはメレディアナだけだ」

 それは彼女自身が言い放った言葉であり、みっともなく追いすがっていたレーラは自身の敗北を悟った。

 つまり、一体、どこから見ていた?

 侯爵家の長男であるエセル・ューミットの横領が露見したとか、一大事件なのだろうがそんなことはどうでもよかった。目の前で起きている出来事全て現実味がない。
 メレは確認するように、現実を理解しようと必死に口を動かす。

「イヴァン伯爵、御機嫌よう。ところで先ほど何を言ったのかしら。もう一度確認したいのだけど、まさかとは思うけれど、わたくし以外に発言相手に相応しい者が見当たらないのだけど……妻って何事!?」

「お前のことだが」

「ふざけるのも大概になさい!」

「大真面目だ」

 聞きたいことが色々あり過ぎて、どこをどうしていいかわからないのは初めてだ。告白どころかプロポーズすらもされた覚がない。大前提として甘い関係ではなかった。それをいきなり妻呼ばわりされる状況のどこが大真面目なのか。
 ところがメレの困惑などそっちのけで周囲は歓喜している様子。ラーシェルとノネットがドアの外でハイタッチしているのを目撃してしまう。

「いや、実に素晴らしい。さすが我が主、オルフェリゼ様であらせられる」

「さすがオルフェ様、素晴らしいタイミングです! メレ様も心を射止められたこと間違いなし。あれでもロマンチックな場面に弱い方ですからね。作戦は完璧! 結果も完ぺ――、あ……」

 ノネットと目が合えば、まずいという心の声が聞こえるようだ。

「ノネット?」

 有無を言わさぬ迫力にノネットは全身を震わせる。こんな時にこそ破壊系魔女の凄味が発揮されると彼女は知っている。

「貴女何を知っているのかしら。一から十まで全部説明なさい」

 悪い事をした自覚があるのか、観念した使い魔の自白タイムが始まろうとしていた。