「そのお顔、ご自分の気持ちがわからないのかしら。でしたら聞き方を変えるわ。あなたオルフェの何?」

 まるで物のような言い方で嫌になる。けれどメレもその答えを探したいと思っていた。
 愛を囁かれるような恋人ではない。
 親しげに語り合える友人でもない。
 だとしたら何なのか……
 けれどこれだけは言える。オルフェはもう、ただの憎い宿敵ではなくなっていた。

 オルフェと出会い、競い合いうことで信頼に値する相手と認めるようになっていた。オルフェから学び、教えられることもあった。だとしたら『好敵手』を連想しよう。自覚して、メレは誇らしい気分だった。
 けれどそれをレーラに話して聞かせることはない。話したところで理解されはしないだろう。二人だけの秘密でいいとさえ思えた。

 それをどう解釈したのか、レーラは勝ち誇ったような笑みを見せる。

「もしかして、わたくしたちの関係を知って遠慮していらっしゃる? そうね、わたくしのお下がりだけれど顔は良い男よ。譲ってあげてもよろしいわ」

 その言い方はオルフェに失礼だ。レーラに対しての憤り芽生えるも、何故と残った冷静な部分が問い掛ける。たとえ彼が貶されようと怒る義理はないのに、まるで自分のことのように反論したくなるのは何故か。

(そうよ、だって……このわたくしの好敵手ですもの。わたくしが貶されたと同じことだわ!)

「見る目がないのね」

 メレは自分でも驚くほど自然に声を発していた。
 意地悪な口ぶりをしていても心には優しさがあった。誠実で家族を大切にしていて、民からも愛されている。そんな姿を何度も見せつけられてきたというのに、レーラは知らないというのか。

「なあに、わたくしに嫉妬しているの?」

 オルフェに対しては不遜な態度を取り続けていたメレだが、言葉を向けるべき相手は選んでいた。彼がただのお得意様であったなら、もっと違う関係を築いていたかもしれない。レーラに対しても貴族のお嬢様という体で接していたのだが、もう必要ないと腹を括る。

「いいえ、呆れているの。あなたに嫉妬することは微塵もないわね。せっかくなのでわたくしからも訊かせていただける? レーラ様はエセル・シューミット様を愛していたからイヴァン伯爵との婚約を破棄されたのでしょうか」

 レーラは目を丸くしていた。それは女にとって予想外の発言だったのだろう。