メレにとってオルフェは敵だがその家族は頼もしい友人である。午後のお茶会を提案すればフィリアは心良く応じてくれた。
 屋敷の庭園にも薔薇が咲いており、お茶会にはぴったりだ。カティナも誘うつもりでいたが、彼女は祭りで売る菓子の監修に追われているらしい。

「カティナ様はお店を出されるのですか?」

「大げさなものではないのよ。あの子、お菓子作りが好きでしょう。チャリティーのイベントもあるから、たくさんの人に披露できる機会だって張り切っているの。その分、メレディアナ様とお話できないことは嘆いていたけれどね」

 それは残念だとメレも素直に頷く。

「他にはどのようなことをなさるのですか?」

「そうねえ……パレードをしたり、色んなコンテストがあちこちで開催されたり。噴水広場では一日中踊り明かしたりもするのよ」

「一日中、ですか?」

 大変な体力が必要ではないだろうか。

「ああ、一日中といっても一人で延々と踊り続けるわけじゃないの。音楽に合わせて、入れ替わりながら踊りたい人が踊るわ。服装も身分も自由、踊るのも辞めるのも自由よ。ステップも難しいものではないし、メレディアナ様も参加されてはいかが? わたくしも昔、主人と楽しんだのよ。実は主人と出会ったきっかけでもあるの」

「素敵ですね!」

 キラキラとした話題に声が弾む。

「手を取り合って踊ったあの日を、わたくしは今でも忘れられないの。蒼い瞳に見つめられて胸が高鳴った。周囲では賑やかな音楽が鳴っていたのに、わたくしったらぜんぜん耳に入っていなくてね。何度もおかしなステップを踏んでしまったわ」

「フィリア様でもそんな失敗を?」

 この穏やかに微笑む完璧な淑女がと思わず訊き返してしまう。

「今思い出しても恥ずかしいわ。でも、お祭りなんて楽しめればそれでいいのよね。失敗なんて恐れちゃいけない。楽しい空気になれば周囲の人も笑ってくださるし」

「素敵なお祭りですね」

「ぜひメレディアナ様にも楽しんでいただきたいわ。わたくしが案内出来れば良かったけれど、カティナを手伝う約束なのよ」

「お気になさらないでください。当日はわたくしも寄らせていただきますね」

「まあ嬉しい。ああ、そうだ! オルフェに案内させましょうか? あの子、誰よりも詳しいと思うから」

(でしょうね!)

 なんといっても連覇中である。

「とんでもないことです。伯爵も当日は色々とお忙しいでしょうから、ご迷惑はかけられません。それに当日の約束はもう別の方としていますので」

 ラーシェルは自分との勝負に忙しくて、メレはオルフェと回る予定だ。

「あら、エスコート役はもう決まっていらしたのね。あの子ったら、さぞ残念がることでしょうね」

 そっと口元を隠すフィリアからは笑みが零れているが、それはないだろうとメレは苦笑するしかなかった。

「イヴァン伯爵は、その……随分と祭りを満喫されているようですね」

 本当にねとフィリアは優雅に肯定していた。