「嘆きたいのはわたくしよ! 貸している家は埃まみれ、しかもあと一年はエリーたちが戻らないですって? はあ……」

「ため息、俺も出るよ。出そうか?」

「呑み込んでちょうだい。ところで貴方、エイベラは長いでしょう。白薔薇祭りに参加したことは」

「あると思う?」

「わたくし勝負に夢中になるあまり我を忘れていたのかしら」

 この引き籠りに限ってあるわけがない。

「でも話に聞いたことくらいは――」

「あると思う?」

「ありなさいよ!」

 まったく同じ返答に声を張り上げていた。

 ならば引き籠りからの情報は諦め、その使い魔から話を聞くことにしよう。

「鏡よ鏡、鏡さん。エリーに繋いで」

 カガミが映すのは薄暗い洞窟のような場所だった。
 闇を縫い二つの目が光る。

「これはメレディアナ様! いつも主がお世話になっております!」

 闇と同化した黒い蝙蝠は呼びかけに応じてくれた。

「お久しぶり、元気そうで何よりだわ。今よろしいかしら?」

「はい! メレディアナ様からの連絡なら大歓迎です!」 

「気苦労お察しするわ。休暇の邪魔をして申し訳ないわね」

「いえいえ! お恥ずかしながら、休暇を使って洞窟巡りの最中で、薄暗くて申し訳ないのですが。珍しいですね。何か困ったことでも――あ、もしかしてそこ埃だらけですか?」

「全面的に察しの通りだけど、埃のことはいったん忘れましょう。聞きたいことがあるの。貴女白薔薇祭りを御存じ?」

「もちろんです。エイベラで知らないのは日頃棺桶に引き籠っている吸血鬼くらいのものですよ」

「話が早くて助かるわ。わたくし訳あって『薔薇王』に選ばれたいのだけど」

 エリーは顎に翼を当て『白薔王』と重々しく呟いた。

「実はその称号、毎年のようにとある伯爵家の方が連覇しているんです」

「ええ、よーく知っているわ」

 エリーいわく、この時のメレはやけに遠い目をしていたという。
 しかし気持ちを切り替えて調査を進めた。

 エイベラは大陸の中でも温暖な地域に属しどこよりも早く季節が変わる。そのため気候にあやかり初物に定評があるとされていた。
 とはいえ目立った産業も名物もなく、ならば作ってしまえと目をつけたのが薔薇である。
 元々生息していた野薔薇や蔓薔薇に改良を重ねるうち暗かった街は花で溢れ薔薇の都と呼ばれるに至った。その功績と発展を称えるための祭りだそうだ。

 祭りの概要を知識として得たメレは、次は実際の様子を知るべきだと考える。
 過去の様子はカガミを駆使して見せてもらうとして、他にも手段はあるだろう。