最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~

「凄いのはわたくしのランプ! 百歩譲ってもラーシェルの力で――、そうよ……! わたくし名案を思いついたわ」

「メレディアナ、顔が悪役」

 ぎょっとしたキースが不安げに見つめているが知ったことではない。何も悪事を働こうというわけではないのだ。

「あのね、キース。少し演出の予定を変更しようと思うの」

「え……アドリブとか、本気で無理……死ぬ!」

「死なない」

 あと百回ほど練習したかったとキースがいくら足掻いても出番はすぐそこまで迫っていた。


 アンコールの嵐が過ぎればラーシェルは想像通りの歓声を浴びている。講演の予定はないのかと質問攻めだ。
 誰もがこの後に控えている余興の存在を忘れている。勝つためには会場の空気を塗り替え、これ以上を手に入れなければならない。

(ならいっそ、これをひっくるめて注目を浴びてやるわ!)

 脚本を変更すべくラーシェルへと近付く。

「おや」

 メレに気付いたラーシェルは一瞬だけ驚きを露わにし、すぐに見惚れるような笑顔で固めた。

「とても素晴らしい演奏でしたわ。今宵の注目、全て貴方に奪われてしまいましたわね」

「まさか、私などには勿体ない言葉でございます」

 白々しいことこの上ない。

「ご謙遜を。演奏だけでなくお心も素晴らしい方ですのね。わたくし感服致しております。それを見込んでご相談、いえお願いがございますの」

「何かお困りでいらっしゃいますか?」

 とてもそんな風には見えないと言うラーシェルだが、オルフェは見守るだけで会話を止めようとはしなかった。

「この度の演奏、とても素晴らしいものでしたわ。ですがそのせいで……わたくしの手配していたヴァイオリニストが逃げてしまいましたの。あんな人間離れした演奏の後に弾け? 冗談きついだろと涙目で逃げられてしまって……」

 メレの発言に観客たちも激しく同意する。アレの後で演奏とは誰だって勘弁願いたいだろう。
 しかしそのような人物は最初からメレには存在していない。手配したヴァイオリニスト? 最初からメレが弾くつもりでいた。