最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~

 あらかじめ把握していたとはいえ、名家の子息や令嬢ばかりか実業家たちまで。各方面から著名人が駆けつけている。白薔薇祭りに乗じた社交という名目らしいが、イヴァン家の人脈恐るべしだ。その点に関しては素直に称賛を贈ってもいい。
 ホールは吹き抜けのような構造になっており、階段上には主催者であるオルフェが挨拶のため注目を集めていた。

「ようこそお越しくださいました。長い挨拶など無粋なものは手短に切り上げましょう。本日は皆さまのために特別な催しを用意しています」

 主催者からの言葉に招待客は期待にざわめく。

「僭越ながらまずは私から。ささやかではありますが夢のような一時をお約束しましょう。異論はございますか?」

 意を唱える者がいるはずもない。何故わざわざ伺いを立てるのか招待客には疑問が浮かんでいることだろう。
 メレは視線を受けて尚沈黙を貫いた。いいだろう、先手は譲ってくれる。そう目で告げればオルフェも段上に姿を現す。彼が手にしているのはヴァイオリンだった。

 ヴァイオリンの演奏か――

 誰かが呟いた。
 後方から会場全体を観察しているメレは僅かな呟きも聞き逃しはしない。
 どこかでつまらない、ありきたりだと感じた人間もいるはずだ。芸術に肥えた貴族たちにとってはありふれた演目である。
 しかし彼の演奏はとてもそう感じさせるものではなかった。

「人間離れとはこのことね」

 メレはそう表現した。まさに人間ではないので的を得ている。
 指捌きが人の域を越えた高速、反則級の腕前だ。さらに目を閉じながら優雅な足取りで階段を下り始め、まるで踊るように弾いてみせる。顔が良いことも相まって女性陣は特に釘付けだ。
 曲目にも工夫が凝らされている。誰もが一度は耳にしたことがある有名なバラードを斬新なアップテンポの曲へと変貌させているのだ。聴き入らないわけがない。

「やってくれるわね。魔法は使えてもわたくしではプロ級の、というか人間反則級の動きをすることは難しい。なんて上手いの。わたくしに出来ないことをやるなんて、実に理解していてねぇ……」

 ぎりぎりと唇を引き結べばキースが感嘆の声を上げる。

「伯爵、凄いんだ」