「お上手ですのねー」
そのまま顔面に拳をお見舞いしてやりたかった。
「ところで、そちらは?」
予想通りの疑問に、矛先を向けられたキースは一度肩を振るわせる。
「……初めまして。メレディアナの友人で、キース・ナイトベレアです」
声には些か張りが、猫背もシャンと伸びている。まるで別人、特訓の賜物だ。
「初めまして。オルフェリゼ・イヴァンです。よければ気軽にオルフェと呼んでください」
「あ! 君が例の、噂の伯爵?」
「なるほど、俺たちの事情をご存じと。それにしても……」
キースから視線を移し、物言いたげに見つめられたメレは身構える。
「お前、相変わらずいい趣味をしているな」
即座に顔のことかと納得する。
「わたくしの隣を許すのだから友人の中でもとびきりよ。覚悟しておくことね」
「本気、というわけか」
人間相手に勝つなんて簡単なこと?
まさか。おごりは捨てた。持ち得るもの全てを駆使して挑まなければ負けるだろう。
「それでは後ほど。楽しみにしているわ」
宣戦布告と共に踵を返したメレは、キースを引きずるようにホールへ向かう。その時、偶然耳にした言葉に顔を引きつらせずにいられなかった。
「やあ! イヴァン家でパーティーなんて久しぶりだな」
「ああ、良くきてくれた! 今日はとびきりの余興も用意している。ぜひ楽しんでくれ」
わざわざメレの耳に届くよう大きな声で、あからさまな挑発だ。
「ちょ、メレディアナ! 腕っ、腕痛いから!」
キースの声などメレには届いていなかった。
「キース。わたくしたち、頑張りましょうね」
華やかな貴族の宴。かつて出席していた頃は長い催しを想像してうんざりしていたけれど、いまでは心踊っていることに気付かされる。
「お、お手柔らかに……」
「パーティーって、こんなに心燃えるものだったのね」
「いや普通は燃えない……」
さらっとキースの発言を無視して腕を組む。キースはといえば、その瞬間にビクリと体を震わせた。
そろそろ敵を威嚇していた瞳は封印しなければ。唇は緩やかに弧を描き自然な笑顔を浮かべる。そして隣を歩くキースに一言。
「笑顔が足りない。もっと愛想良く」
恋人たちの秘め事のように、さっそく駄目出しをしていた。
そのまま顔面に拳をお見舞いしてやりたかった。
「ところで、そちらは?」
予想通りの疑問に、矛先を向けられたキースは一度肩を振るわせる。
「……初めまして。メレディアナの友人で、キース・ナイトベレアです」
声には些か張りが、猫背もシャンと伸びている。まるで別人、特訓の賜物だ。
「初めまして。オルフェリゼ・イヴァンです。よければ気軽にオルフェと呼んでください」
「あ! 君が例の、噂の伯爵?」
「なるほど、俺たちの事情をご存じと。それにしても……」
キースから視線を移し、物言いたげに見つめられたメレは身構える。
「お前、相変わらずいい趣味をしているな」
即座に顔のことかと納得する。
「わたくしの隣を許すのだから友人の中でもとびきりよ。覚悟しておくことね」
「本気、というわけか」
人間相手に勝つなんて簡単なこと?
まさか。おごりは捨てた。持ち得るもの全てを駆使して挑まなければ負けるだろう。
「それでは後ほど。楽しみにしているわ」
宣戦布告と共に踵を返したメレは、キースを引きずるようにホールへ向かう。その時、偶然耳にした言葉に顔を引きつらせずにいられなかった。
「やあ! イヴァン家でパーティーなんて久しぶりだな」
「ああ、良くきてくれた! 今日はとびきりの余興も用意している。ぜひ楽しんでくれ」
わざわざメレの耳に届くよう大きな声で、あからさまな挑発だ。
「ちょ、メレディアナ! 腕っ、腕痛いから!」
キースの声などメレには届いていなかった。
「キース。わたくしたち、頑張りましょうね」
華やかな貴族の宴。かつて出席していた頃は長い催しを想像してうんざりしていたけれど、いまでは心踊っていることに気付かされる。
「お、お手柔らかに……」
「パーティーって、こんなに心燃えるものだったのね」
「いや普通は燃えない……」
さらっとキースの発言を無視して腕を組む。キースはといえば、その瞬間にビクリと体を震わせた。
そろそろ敵を威嚇していた瞳は封印しなければ。唇は緩やかに弧を描き自然な笑顔を浮かべる。そして隣を歩くキースに一言。
「笑顔が足りない。もっと愛想良く」
恋人たちの秘め事のように、さっそく駄目出しをしていた。


