「外にフィリア様がいらっしゃるでしょう? 帰る時に声をかけると約束しているの」

 イヴァン家を訪問すれば庭園を歩くフィリアに遭遇し、時間が迫っていると告げれば酷く残念そうな顔をさせてしままった。だからつい、帰りにまた寄りますなどと口走ってしまったのだ。自業自得である。

「それは、母が迷惑をかけて悪いな」

 本当に申し訳なさそうな顔をしたオルフェに見間違いかと二度見した。自分のことでは不遜な態度しか見せないのに、家族が絡むと別人のようだ。それはきっと愛されて育った証、家族を大切にするのは良いことだとメレは思う。

「迷惑なんて、そんな……。フィリア様と話すのは嫌いではないから。というか、わたくしに一番迷惑をかけている張本人が何を言うの!」

「そうか、良かった」

「良くないわ。今すぐ改心なさい」

 どうせ都合よく聞き流すのだろう。意味のない会話は早急に切り上げフィリアの元へ向かうことを決めた。

 メレが拠点とするエイベラの出口、またの名をキース邸。
 本来別の住人が暮らしているのだが、名義はメレにあるので真の持ち主が自由にしても問題はない。その一室では明後日に向けての作戦会議が執り行われていた。

「いきなりパーティーに出席しろ、それも余興を、しかも明後日?」

 現状をまとめたところ、どう考えても普通は何日も前から綿密に計画すべきことである。さらに悩ましげな声が漏れるのはそれだけが原因ではない。

「なんなのこの量! わたくし出席者名簿を頼んだだけよ!? この図鑑のような分厚さ……疲弊させるためにわざと間違えてよこしたのかしら……」

 ちらりとページをめくれば間違いなく人の名が並んでいる名簿だった。
 その瞬間、どこからともなく「どうした読めないのか?」という声が妙にリアルに再生される。憎きオルフェが嘲笑っているような気がしてならない。

「へえ、ふうん……。全部読んで完璧に暗記してやるから、見ていなさい!」

 どこに何のヒントが紛れているかわからない。その一心でメレは読み進めた。