「当然ね」

 対してオルフェはどうだろう。
 メレとて相手の動向には気を配っている。なにしろ妨害禁止令は出ていないのだ。

 結論から言えば彼に不審な動きはない。唯一不審に感じたのは、開始直後しばしメレの手際に見入っていたことくらいだろう。この男は何がしたいのか。余裕かと非難めいた視線を浴びせるも特別効果はなかった。

 ようやく調理に動いたかと思えば悠長に計量を始め、別のボールに卵を割り泡立て牛乳を入れた。泡立てる手つきは良いが、ノネットの実況が炸裂する内容もない地味な作業。粉も混ぜて更に泡だて続け……
 出来上がった生地をフライパンに流し、生地の表面にプツプツと気泡が浮かんだ頃合いでひっくり返す。

 そうして焼き上がるものは――

「どう見てもただのパンケーキにしか見えないのだけど」

「ああ、その通りだ。これがステーキに見えるなら色々と手遅れだろう」

 いつかの皮肉を返される。

「ふざけているの?」

「まさか」

 薄すぎず焦げてもいない。焼き加減のムラもなくこんがりとした絶妙な焼き加減のパンケーキは美味そうではある。だとしても添えられた木イチゴのソースが僅かばかりの彩りで、正直カティナの作ったケーキの方が鮮やかだった。

「勝てないと悟って試合を放棄したのかしら。見なさい、わたくしの品を!」

 颯爽とテーブルにそびえ立つ二段重ねのケーキ。
 白いクリームにコーティングされた姿はさながら塔のように美しい。外壁には窓のようにマカロンが飾られ、屋根のように艶やかなチョコレートの飾り、宝石のように飾られたフルーツは瑞々しく芸術といっても過言ではない。そっと包丁を入れ切り分ければ黄色いスポンジが顔を出す。その断面にはあのストロベリーを煮詰めて作ったジャムが挟まれていた。
 人間の手は二つ、だがメレには魔法という武器がある。全ての動作を同時に行うことで最低限の時間で作り終えることにも成功している。

「いかが?」

「美味そうだ」

「でしょうね。見た目の素晴らしさはもちろん、材料はどれも産地直送を仕入れさせてもらったわ。フルーツなんて朝日を浴びた摘みたてよ。ありがとう、ノネット」

「どういたしましてです!」