鏡の前に立ち精霊を呼び立てる。カガミはようやく穏やかに呼び出されたことに安堵していたが、メレとて人様の家の鏡を殴ることはしない。

「キースのところへお願い」

 カガミに命令を下したメレは、最後に振り返る事もなく宣言する。

「貴方、後悔させてあげる」

 すると鏡に映る対戦相手オルフェは澄ました顔で答えた。

「それは楽しみだ」

(その顔、すぐに屈辱に歪ませてあげるわ!)

 鏡に消えたメレが次に目を開いた時、そこはあの埃っぽい屋敷の一室だった。

「帰ったわ。ノネット?」

 健気なことにノネットは鏡の前で正座待機していた。

「お帰りなさいませ! よかった、メレ様使い魔軍対ランプの精が実現しなくて本当に! それで……どうでしたか?」

 言葉で刺激しないよう、慎重に対応されているのがわかった。手ぶらで帰宅し拳を振るわせているメレである。主人が荒れ狂っているのを十分に察しているのだ。

「ちょっと、聞いてくれる?」

「あ、はい……」

 反論なんて出来るはずもない。出来ることなら逃げ出してしまいたいと、ノネットは自分が悪いわけでもないのに身震いさせられた。

 一通り話終えたメレは、苛立ちのあまり鏡に爪を立てる。

「ちょ、メレ様! カガミさん壊れちゃいますよ!」

 ノネットは仲間の危機に焦りを覚えた。

「え、ああ、いけない。……オルフェリゼ・イヴァン、よくもぬけぬけと!」

 口では「いけない」と自らを窘めるが行動はちっとも変っていなかった。

「わたくしに喧嘩を売るとはいい度胸、一生後悔するがいい! ノネット、作戦会議よ」

「イエス、メレ様! 僭越ながら僕もお手伝いします!」

「ありがとう。あなたがいてくれて心強いわ。……ねえ、ところでキースはどうしているの?」

 これだけ騒いだというのに家主の存在感すら感じないことをいぶかしむ。既に挨拶の一つも終えていそうなノネットに確認してみたところ。

「決まってるじゃないですか!」

「寝ているのね」

「はい……」

 返答が予想通り過ぎて乾いた笑いが零れる。いつになったら家主と会えるのか。