「貴方……いい性格をしていてね。穏便に済ませようとしていたのに、初っ端から台無しにしてくれるなんて」

 営業仕様で取り繕うことは早々に切り上げ、自然と声が低くなる。

「仕方ないだろ。よっぽど良い物を受け取ったんだ」

 この口ぶり、悪い方の予感が当たっているのかもしれない。

「どうすれば交換に応じてくださるのかしら?」

「無理な要求だ」

「しかるべき品を納品すると言っているのよ。違約金を払ってもよろしいわ」

 損失は痛いが、それくらいの財力はある。

「これは金より素晴らしい。世の中には金で買えない物もある。だろ?」

 指輪に口付ければ、その手にはどこからともなくランプが現れた。
 見間違えるはずがない。磨き上げられた黄金色、その表面に刻まれているのは古き時代に使われていた文字。丸みを帯びたシルエットはそれだけで見惚れてしまうのに、そこに映る姿はメレではない。
 ご丁寧にランプ本体を隠し、指輪に機能を移すという小技まで習得済みとは恐れ入る。ランプを奪われることは所有権を放棄するも同じ。それを用心しての行動となれば、彼はメレの目的を知っているのだ。

「わざわざ取り返しにやってくるとは、お目にかかれて光栄だ。麗しき魔女殿」

「何を言うかと思えば……」

 軽い口調で受け流すも、手の内どころか正体もバレている。
 ということはやはり――

「戦争?」

「おやおや、随分と物騒なことですね」

 からかいを含んだ口調の出所を探せば、まるで影のようにオルフェリゼ・イヴァンの背後から現れる。
 二人の青年、並ぶと兄弟のようにも思えた。髪や瞳の色は違っているのに纏う雰囲気がよく似ているのだ。

(オルフェリゼ・イヴァンに見覚えがあると感じるはずね。この二人、よく似ているもの)

 ようやく最初に感じた違和感の正体に納得する。

「貴方、わたくしを覚えているわね」

「世の中には『君どこかで会ったことある?』的な誘い文句があると存じておりますが、これはお誘いなのでしょうか? 美しい女性からお誘いいただけるとは光栄の極みにございます」

「おふざけに付き合ってやるつもりはないわ」

「そう怒らずに。そうですね、知識としては存じております。私を作った魔女、つまりは我が母でもあらせられる」

「成程。既にランプは使用済みというわけね」