整った容姿に添えられるのは、まさに人の良さそうな笑顔で、十人に聞けば十人ともが認める完璧なものだろう。だからこそメレは警戒心を強くする。自分がいつも浮かべている営業スマイルと同じ匂いがしてならないのだ。
 つまり何が言いたいかといえば、見た目詐欺である。優雅に微笑みそうな顔つきでありながら不遜な空気を纏っているのだ。何より鏡に映し出されたシルエットと完全一致している。さらにタイミングを見計らったかのような登場だ。警戒するほかないだろう。

「失礼致しました」

 先手を打ったのはメレである。とはいえ先にターゲットに発見されては先手どころか後手……と思いかけたが、手間が省けたと受け取ろう。無理やり自分を納得させて、まずは穏便なプランを実行すべく頭を下げた。

「不躾な態度、どうかお許しくださいませ。わたくし、ご愛顧いただいております『賢者の瞳』のオーナーことメレディアナ・ブランと申します。貴方様はイヴァン家の方に相違ございませんか?」

「ああ」

 背筋を伸ばし申し訳なさそうに眉を寄せる。意図して重々しい声音を作った。

「誠に申し訳ございません。既にお気づきかと思いますが、先日発送させていただいた荷物の中身が間違っておりました。この度は謝罪と、正規の品を納品させていただきたく参りました」

「それでわざわざオーナー自ら足を運んだと?」

 最高責任者が年若いことをいぶかしんでいるのか、それともオーナー自らが出向いたことを不審がっているのか、なんにせよ探るような眼差しは変わらない。

「こちらの不手際なのです。誠意ある対応を、わたくし自ら出向くことは何もおかしくありません。ご依頼主のオルフェリゼ・イヴァン様はご在宅でしょうか?」

 容姿が若いため、あるいは女だからと侮られるのは慣れている。そもそも相手も青年と形容するに相応しい外見であり、メレが怯むような相手ではなかった。

「オルフェリゼ・イヴァンは俺だ。わざわざ足を運ばせて悪いが、残念なことに取り替えには応じてやれない」

 聞き間違いだろうか。そう信じて再度問いかける。

「美人の澄まし顔が動揺して崩れるってのも悪くないな」

「なっ!」

 その瞬間、メレの被っていた仮面にヒビが入る。メレの仮面が外れたように、彼からも人の良さそうな印象が消えていた。
 完璧な微笑はどこへ? 一転して不遜な気配を漂わせ、男の唇が意地悪く歪む。