からかうつもりが逆にからかわれて終わってしまった。

「はっ、恥ずかしい人! わたくし、ここで逃げることもできるのよ」

「鳥籠に閉じ込めてでも連れて行くことになるが、そうならずに済んで良かった」

「鳥籠なんて簡単に破壊出来るわ」

「だろうな」

 物騒な発言に物騒な回答をして同時に笑う。

「最後の一つだけれど! ……わたくしを虜にさせてごらんなさい。貴方なしでは生きていけないほど深く、永久に、……愛させて」

「へえ」

 一世一代の決意で告げたというのにオルフェの反応はそっけなく、提案しておきながら恥ずかしくなった。こんなことを口にしたのは生まれて初めてなのだ。

「ま、まあ、それが叶ったら……結婚してあげてもいいわ。勝つ自信、あるかしら?」

(本当にどうしてこうなったのかしら……)

 魔法のランプを作った結果、婚約が決まった。

 真相はノネットの口から聞かされたとはいえ、世話になった人たちに何と説明すれば――いや、既にノネット経由で認知されている可能性もある。
 こんなことのためにランプを作ったわけではなく、製作者として項垂れてしまうのも仕方がないこと。結末に胆しているわけではないが、最後まで一人踊らされるのは癪だった。だからせめてこれくらいはと、小さな意趣返し。

 さあ、オルフェはどう出る?

「一つ訂正しておこう」

 あれだけ自信過剰に挑みながら、さっそく誓いを放棄するつもりかとメレは眉を潜めた。

「ランプ争奪戦は俺が勝者のようだ。最後に全ての白薔薇を手に入れるのは、この俺だろ!」

 違った。さらなる自信過剰発言だった。見せつけるようにメレの髪を掬い口付ける。それは雪のように、あるいは白薔薇のように美しい。

 エイベラが婚約発表に沸くまであと少しだ。


 いずれ執り行われるイヴァン家の結婚式は招待客もさることながら、演出に至るまでそれは盛大なものになるだろう。なにせ魔女とランプの精が揃っているのだから。

 神に永遠の愛を誓う必要はない。もっと万能な人物が傍で見守っている。
 ならば彼に誓おうというのは自然な流れだった。そもそも自称キューピッドである。

 ランプに誓って――

 そんな不思議な文句が二人の結婚式を境に夫婦円満の秘訣として流行ることになる。それは遠くない未来の話だ。

 その時は改めて訂正しよう。魔法のランプを作った結果、結婚が決まったと。