最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~

 強くなるためなら人生すら惜しくなかった。けれど長い年月を重ねるうち、もういいのではないかと思うようになっていた。
 守りたかった弟が、自分という存在によって苦しんでいる。その事実がメレの人生を歪めていた。

「わたくしが傍に居なくても守れるように、後を任せられる信頼できる人物を選ばなければと思ったわ。わたくしは一つだけ願いをかけ、後は弟に託しブラン家を去るつもりだった」

「一つ? 欲がないな」

「いいえ。わたくしはとても欲張りなのよ」

 叶えたい願いがたくさんあったから魔女になった。
 魔女になったことも、ランプ作ったことも、すべては自分のためなのだから。

「大切な人がいなくなるのはもう嫌。老いない体を疎まれるのも……まあ、それについてはわたくしの勘違いだったようだけど!」

 何年もの苦悩はいったい。ここで多少脱力しても罰はあたらないだろう。

「いずれ魔女は滅びる。その時になって一人長く生きるなんてごめんなの。わたくし不死崩しの呪文は得意だけれど、この手の魔法は自分には効かないものよ」

 けれどもう、ランプは悲しみを絶ち切るための道具ではなくなった。

「死ぬためなんて、もう悲しいことは言わない。幸せに生きるために必要だった、ということね。いずれの持参金はランプでよろしくて?」

 からかうようにメレは問いかける。

「釣りが出そうだな。本当にいいのか?」

「未練などなくてよ」

 それでもオルフェは納得していない様子だった。人間にとって長寿とはそれほど魅力的なのだろうか。百年を生きたメレには理解できない感覚となっている。

「魔女になったことを後悔するつもりはないけれど、わたくしは愛した人と同じ時を生きたい。さあ、わたくしがいいと言っているのよ! まさか叶えられないとでも?」

 挑発すればオルフェはどこか嬉しそうである。

「いや、さすが俺のみ込んだ女。惚れ直すね! ラーシェル、耳貸せ」

 手招きしたラーシェルとなにやら打ち合わせをしていた。耳元でひそひそ囁かれては内容まで聞こえないが、生き生きとしているオルフェとは対照的にラーシェルは微妙な表情である。