最強の魔女と策士な伯爵~魔法のランプをめぐる攻防~

 それはひとまず置いておくとして。

「なによ……。そんなの、早く言ってくれれば……直接言いなさいよ、馬鹿……」

 馬鹿と連呼しながら涙交じりの笑みを浮かべるなんて子どもじみている。そうとわかっていても長年のわだかまりが解消されたのだ。やめられるものではない。
 すかさずノネットも身を乗り出す。

「メレ様、安心してください。だってご当主様も立派なメンバーですから!」

 何のとはあまり聞きたくなかったけれど、誰がメンバーと知れた時よりも嬉しかった。初めて隊の名称が心に沁みる。

「長く生きていようと意外に子どもっぽい一面もある。そんなお前が良いんだ」

「うるさくてよ、この女たらし!」

「心外だが、仮にそうだというのなら、お前にだけだ」

 きっとレーラは知らない。知ろうともしなかった。だからこれはメレだけに向けられたオルフェの心。

「気持ちは嬉しいと、思って、いなくもないわ。そんな風に言ってくれた人……初めてだから」

「お前の戸惑いも察しよう。本来ならば俺が完勝し、ランプともども問答無用でお前を手に入れる計画だったが、やってきた女性が思いの他手ごわくてな」

「ねえ、わたくし褒められているのよね?」

「当然だ」

 放っておけばいくらでも話は脱線していきそうだ。オルフェのペースに巻き込まれる前にメレは自らの意見を通そうと試みる。

「……婚約なら、してさしあげても、構わないわ。ただし条件があります」

「ほう。言ってみろ」

「勝負しましょう」

「何だと?」

「妻になるには三つ、条件があるわ。結婚に至れるかは、つまり貴方次第ね」

「また三つ、ね。面白い、訊かせてもらおう」

 意趣返しの意味も込めて、メレはあえて三つの条件を選ぶ。

「一つ、わたくしの願いを叶えて」

「確か叶えたい願いがあると言っていたな。婚約祝いだ、なんでも願えよ」

 使用者の許可を得てメレはラーシェルに願う。

「ラーシェル、わたくしの寿命を彼と同じになさい」

「メレ様?」

 命じられたラーシェルは戸惑った様子で主の判断を仰ぐ。そのオルフェすら戸惑っているように見えた。

「何故ランプを作ったか訊いたわね」

「死ぬためか」

「結論を言えばそうかもしれないわね。けれど元は弟へのプレゼントだったのよ」