メレたちはカガミの案内に従い、わき目もふらずに目的地を目指す。そして到着するなり細い路地へと身を潜めていた。ターゲットが潜んでいるであろう屋敷を監視しているのである。
 メレは鏡に向かって呼びかけた。

「はいはい、お呼びでっと! ターゲットについてかい?」

「ええ、まずは顔を拝ませなさい。あの映し絵では後ろ姿しか見えなかったわ。正面からの姿もあるでしょう? 顔を確認して迅速に対応しないとね。ちなみに留守のようなら忍び込んでかっ攫うのも良しとするわ」

 非常事態ですものと言葉に笑顔を添えて。もちろん本来の品を納品したうえで詫びの品も丁重に置かせてもらうつもりだ。
 それはもはや対応ではないような――
 しかしノネットは喉元まで出かかった言葉を抑えた。

「随分と熱烈だな」

 そう、ノネットは賢明だった。つまり反応したのは彼女ではない。
 そもそも声は男のものだった。不審者として通報されないよう警戒していたにもかかわらず、容易く背後を取られたのである。

「……どなたでしょうか?」

 怪しい行動をしている自覚はあるが、彼の発言は常套句の『そこで何をしている!』ではなかった。

「熱い視線を向けられて気になってね」

 路地から顔を出すのは見ず知らずの人間だ。そのはずなのに、どこか彼を知っているような印象を抱くのは何故だろう。まるで似た誰かを知っているような感覚に近かった。

「俺の家に用かい?」

 一目で上質だと感じさせる服装は貴族のようだが口調には粗さが交じる。興味深そうに見つめる瞳は澄んだ蒼で、空の様に美しい。けれどメレに向けられている眼差しは全てを見透かすような深さを感じさせた。その蒼を濃く映したような髪色は、計り知れない相手への警戒を抱かせる。