夢の中の男の子は顔もわからないし名前も知らない。でも声だけは聞こえる。
私はその男の子のことをずっと考えていた。
「...も...もも...桃!」
「な、なに!?」
「今から俺んち来る?」
この男子は西川 優馬(にしかわ ゆうま)。
たまに裏で何かしてるとか噂を聞くけど優しいしそんなことを信用していない。
クラスメイトの1人でもあり、私の彼氏でもある。
「!!行ってみたい!」
「よし、決まりな」


「お邪魔します...」
「ははっそんな堅苦しくならなくていいよ、親は夜しか帰ってこないし」
「そ、そうなんだ!」
優馬の家は初めてだからなかなか緊張する。
そのときあの夢のことをふと思い出した。
「ねぇ、優馬って同じような夢を何回も見たことある?」
「いやぁ、ないけど...」
「そっかー。」
「もしかして、桃同じ夢見てて、それで元気がないのか?」
「実は、そうなんだよね...」
「その夢ってどんな夢だ?」
「私の知らない1人の男の子が出てきて、『___じゃなくて俺にしろよ...』って言ってくるの」
後ろからハグされて言われてるのは言わない方がいいよね...
「最初の部分はわからないのか?」
「うん、そこだけどうしても聞き取れないの。」
「そうか。またなんかわかったことがあれば言えよ?」
「うん、ありがとうね」

そんなこんなで1学期は終わり夏休みに入った。

「桃ー!!海行くよ!海!」
「へ?海??」
朝起きたら莉奈が私の部屋にいた。
多分家に入れたのはお母さんだ。
「桃、最近悩んでる顔してたから、気晴らしに海に行こうと思って!」
「莉奈...ありがとう...って、そんなこと言って自分が海行きたいだけでしょ!そういうところも好きだけどね!」
「桃〜!!私も好きだよおおお!」
「わあああ、もう、くっつかないでー!!準備するから!」

「わあああ!綺麗!!」
「水が透明みたいだね」
「入ろ!!」
さっそく海に入ろうとしたその時だった。
「お姉さんたち、2人きり?俺らのとこ来ない?」
「あの、私たち...海に...」
言い返すけど声は小さい。
「私たち男性には困ってませんので!行こ!!」
莉奈がそう言い返し、私の手を引っ張ったそのときだった。
「少しだけでいいからさっ...!!」
声をかけてきた男達の1人が莉奈の手を掴んだ。
「や、やめ...」
男達は莉奈の手を掴んだまま私たちの方に近づいてくる。
このまま叩かれるのかもしれない。連れ去られるのかも。と目を瞑ったそのときだった。
「姉ちゃんと"もも"!こんなとこにいたのかよ!」
「あ?誰だよお前」
「あなたが今手を掴んでる人は俺の姉、その隣の人は俺の彼女ですけど?一応言っときますが姉は彼氏いますから」
「なんだよ、本当に男いるじゃねえか。かまって損したわ。」
男達は去っていった。
「姉さんたち大丈夫か?」
「あ...はい...。」
この声どこかで聞いたことあるような...
「てか君誰!?1番気になったのはなんで桃の名前知ってるの!?」
「あ?あぁそれは..."もも"に聞けば早いんじゃねぇか?」
え?私??
もちろんこの男の子とは会ったことも見たこともない。名前も知らない。
でもどこか、声だけは聞いたことあるような気がする。
「桃、この人と知り合い?」
「こ、声だけなら...」
「声だけ!?なにそれ...?」
この人とはきっとどこかで会ったことがある。
私の心がそう言っている。
でももう会うことはないだろうとこのときは思った。
「あんたら向日葵学園の生徒だろ?」
「そうだけど...」
莉奈が答えた。
「やっぱり。ちなみに俺の名前は...」
「あ!こんなとこにいた!!」
「あ、宏輝。」
「お前急にいなくなるから探したぞ!!こいつが迷惑かけましたよね、すみません!」
宏輝と言われた男の子は深々と頭を下げている。
「ではまた!!」
早足で2人は去っていった。
「あ、名前...」
「不思議なやつらだったねえ」
「そうだね..」
「とりあえず海たのしむぞー!!」

どこか聞き覚えのある声。
でもきっともう会えないだろうと思っていた。
学校が始まるまでは。